遺産分割協議についてQ&A
A1 法律上、婚姻経験のない20未満の者(未成年者)は、その行為能力が制限されているため、原則として、法定代理人の同意を得ずに契約(法律行為)を結んだとしても、取り消されてしまうことがあります。
したがって、遺産分割協議も法律行為のひとつであるため、未成年者本人が協議書に自ら署名押印をしたとしても、それだけでは不十分です。 ※ 家庭裁判所による特別代理人を選任せずに行った遺産分割審判手続きを無効とした例(東京高決 昭和58.3.23)があります。
未成年者の場合は、通常、両親が法定代理人として、子供の生活全般における法律行為や財産管理を行うことになりますが、相続における遺産分割協議(子とともに親も相続人に該当する場合)では認められていません。
これは、客観的に見れば子とその代理人である親の利益が相反していることから、これを認めてしまうと、公平な遺産分割が行われない恐れがあるためです。よって、あなたのお子さんが未成年者であり、かつ、その子と母親が共同相続人である以上、母親であるあなた以外の代理人を立てる必要が出てきます。
そこで、親権者であるあなたは、家庭裁判所に子の特別代理人を選任してもらい、お子さんに代わって、その特別代理人に遺産分割協議に参加してもらう必要があります。
特別代理人を選任してもらう際には、申し立て書に候補者記入欄がありますので、相続人にとって利害関係のない者(叔父・叔母、弁護士など)を候補者として記入しておくと良いでしょう。
A2 相続における胎児の扱いについては、法律上、次のような規定があります。
①胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
②前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。(民法 第886条)
したがって、まだ生まれてきてはいませんが、あなたが身ごもっているお子さんについても、一応、相続人としての権利があるのは確かです。さて、問題は、遺産分割の方法です。
もし仮に、胎児が生まれてくることを前提に、先に遺産分割協議を行ってしまうと、実は1人ではなく双子(三つ子)だった、あるいは流産してしまった等の問題が発生した場合、後に各共同相続人の相続分が変わってきてしまうため、面倒なことになります。
胎児の遺産分割については、学説でも分かれており、①胎児が生まれてくるまでは遺産分割協議はできないとする説、②遺産分割協議は行えるが、生きて生まれてきた場合には、事後価額による支払をすればよい、とする説がありますが、先に述べた理由から言っても、胎児が生まれてくるまでは、遺産分割は待った方が無難であると思われます。
A3 家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てて、この財産管理人が不在者の代わりに遺産分割協議に参加することで、遺産を分割することができます。このほか、行方不明の状態が長期間続いている場合は、失踪宣告を受けて、死亡したものとする方法もあります。
A4 相続人を一人でも欠いた遺産分割協議は「無効」ですから、やはり遺産分割協議はやり直さなければなりません。なお、被相続人(当該事例では父)の死亡後に、認知の訴えにより認知され、相続人になるケースもあります。
この場合、既に遺産分割協議が終了しているときには、相続分に応じた価額を支払えばよいことになっています。
A5 未成年者は行為能力がありませんので、未成年者自らが遺産分割協議することはできません。そのため成年になるのを待つか、代理人によって協議をしなければなりません。 なお、上記Q1のとおり、親と子が相続人である場合には、親は未成年者を代理することはできません。(民法826条)
つまり、親が、その子とともに遺産分割の協議に参加する場合には、民法第826条(利益相反行為)の規定により特別代理人の選任を要します。また、同じ者の親権に服する未成年者が2人以上いる場合には、それぞれ特別代理人の選任を必要とします。子と他の子との利益が相反するからです。
特別代理人は子の住所地の家庭裁判所に選任を申し立てます。申し立てに必要な書類は下記のとおりです。
・申し立て書1通
・申し立て人(親権者)、子の戸籍謄本 各1通
・特別代理人候補者の戸籍謄本、住民票 各1通
・利益相反行為に関する書面(遺産分割協議書の案)
申し立てに必要な費用
・子1人につき収入印紙800円
・連絡用の郵便切手(申し立てされる家庭裁判所へ確認してください。)
※事案によっては、このほかの資料の提出をお願いすることがあります。
A6 認印は認められません。お住まいの市区町村役場で印鑑登録をしてください。実印に使えるハンコに決まりはありません。ただし、100円ショップ等のハンコでは登録できない可能性があります。
そもそも大変『重要』な実印ですので、同じものがすぐ手に入るのはよろしくありません。 またシャチハタは不可です。(強く押すと、印影が崩れますよね。)
A7 実印の代わりにサインをします。そして、相続人が住んでいる国の日本大使館、日本領事館等で、『このサインは本人のものに間違いがない』という証明をもらいます。
なお、国によってはその国の公証人の公証で足りる場合がありますが、まずは大使館等にお問合せ下さい。
A8 特に決まりはありません。1通しか作らないこともあります。 ただ、遺産分割協議書を持って銀行等の手続きをするときに、1通の協議書を使いまわすのは非効率的ではあります。
A9 そのような分割協議書も可能ですが、負債に対しては注意点があります。 たとえ、『すべての負債は長男が相続する』と協議書に記載しても、債権者にそのことを主張することができません。
債権者は、法定相続分の割合で、各相続人に返済を求める権利を持っています。 なお、長男以外が債権者に返済した場合は、その返済した金額を長男に請求することができます。
A10 遺産分割協議書は法律で規定されているものではなく、必ず作成しなければならないわけではありません。しかし後日の紛争を避けるためにも協議の内容を明確にするため書面に残したほうがよいでしょう。また、各種の遺産相続手続きにおいて遺産分割協議書の提出が必要となります。
例えば遺産分割協議によって不動産を相続する場合、不動産の名義変更には被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等と遺産分割協議書が必要になります。
A11 遺言があっても、相続人全員の同意があれば、遺言と異なる遺産分割協議は可能です。ただし、遺言で遺産分割を禁じた場合(最長5年間)はできません。また、遺言による遺贈がある場合は、受遺者の同意も必要です。
A12 やり直す必要はありません。現金預金については、遺産分割協議をしていませんので、法律上、法定相続分に従って分割されます。なお、実務上、銀行からお金を引き出す際には、銀行から遺産分割協議書の提出を求められることも多いです。
遺産が不明の場合は、遺産分割協議書に『協議後存在が判明した相続財産は○○が相続する』などという文言を入れ作成する事も可能です。
A13 遺言は、法定相続分に優先しますので、協議した内容と異なる遺言が出てきた場合は分割協議が無効になります。 しかし、相続人や受遺者が遺言の内容を確認の上、やり直しをしないことに同意すれば、あらためて分割協議をやり直す必要はありません。
A14 通常、愛人の子は相続人とはなりませんが、認知されている場合は相続人となります。
その場合は遺産分割が終了していても無効となりますので、改めて全員での分割協議をやり直すか、それが不可能であれば家庭裁判所で調停または審判を受ける必要があります。